まずは次の2つのフランス語熟語表現を見てください。
J’ai froid.< avoir froid:寒い>
「私は寒い」
J’ai faim.<avoir faim:お腹がすいた>
「私はお腹がすいた」
この2つの熟語avoir froidとavoir faimはフランス語の動詞avoirを勉強するときに合わせて覚えた熟語表現ですね。
他にもavoir+無冠詞名詞の表現はいくつかあってavoir sommeil「眠い」やavoir soif「喉が渇く」も一緒に勉強したのではないでしょうか。

今日のテーマは僕たちがフランス語を始めたばかりのころに覚えたこれらの熟語表現が実は全く違う種類の熟語であるということと、さらにタイトルにも示したようにフランス語の熟語には柔らかい・硬いという概念が存在することについて説明していきます。
フランス語の熟語には柔らかさ・硬さという概念があるということを知っていると今後のフランス語学習に大いに生きるはずです。それではまずは冒頭で出てきた2つの熟語表現、avoir froidとavoir faimの違いから見ていきましょう。
avoir froidとavoir faimは全く違う
avoir froidとavoir faimはともに文法書や問題集でavoirを勉強するときに一緒に使える表現として勉強する熟語ですね。僕たちはavoir+無冠詞名詞の表現一覧としてavoir froidとavoir faimを同じような意味の表現だと思い勉強してきましたが、そのことを覆す事実をまずはお伝えします。
avoir froidとavoir faimは全く異なる表現です。
どのような点でこの2つの熟語が違うのか、それを知るためにはいくつかのテストを試す必要があります。
以下の例文をもとにこれら2つの熟語表現の違いを明らかにしていきましょう。
- Jean a faim.
- Jean a froid.
形容詞の付加
2つの熟語にはどちらも名詞が付いているので形容詞を付けることができそうです。例えばterrible「ものすごい」という意味の形容詞を名詞であるfaimとfroidに付けて、以下の文のように変形することは可能でしょうか。
ちなみに無冠詞名詞に形容詞をつけるときは不定冠詞un/une/desを名詞の前に付けることを忘れないようにしましょう。
- ○Jean a une faim terrible.
- ×Jean a un froid terrible.
このように2つの熟語に形容詞を付加してみました。
すると不思議なことにavoir faimは形容詞をつけることができるのに対してavoir froidは形容詞をつけることができないのです。
なぜavoir froidに形容詞をつけることができないのでしょう。それはavoir froidという熟語が単語同士(ここではavoirとfroid)の結びつきが硬い、硬い熟語だからです。
熟語はいくつかの単語の結びつきによってできています。この単語同士の結びつきが強いか弱いかによって熟語の柔らかさ・硬さが決定するのです。
上の例であれば、avoir faimは形容詞をつけることができるので柔らかい熟語、avoir froidは形容詞をつけることができないので硬い熟語ということになります。このように同じような熟語表現でも単語同士の結びつきの強度によっては形容詞を足すことができるものやできないものが存在するのです。
prêter attentionとprendre gardeの話
avoir froidやavoir faimだけでなくすべての熟語に柔らかさ・硬さという概念が存在します。
今回は
- prêter attention (à)「~に注意する」
- prendre garde (à)「~に注意する」
という同じ意味の熟語2つを熟語の柔らかさ・硬さという視点から違いを比べてみましょう。
形容詞の付加
今回もそれぞれの熟語に形容詞をつけるテストを行います。以下の2つの例文をもとにして比較します。
- Paul prête attention aux voitures.
- Paul prend garde aux voitures.
意味はどちらも「ポールは車に注意する」という日本語訳になりますね。それでは、この例文にgrand(e)「大きい」という意味の形容詞をつけて比較してみましょう。
- ○ Paul prête une grande attention aux voitures.
- × Paul prend une grande garde aux voitures.
grand(e)という形容詞を付加するとprêter attention (à)は意味が通るのに対してprendre garde (à)は文として成り立たなくなってしまいます。
ここでも熟語に柔らかさと硬さがあるということがわかると思います。prêter attention (à)は形容詞をつけることが可能なので柔らかい熟語、prendre garde (à)は形容詞をつけることが不可能なので硬い熟語ということです。
同じような意味の熟語でも柔らかさと硬さが異なるために形容詞を付けられる熟語とそうでない熟語があるということがわかりました。
柔らかい熟語・硬い熟語を見分けるポイントは?
これまで見てきたことをまとめると、
- フランス語の熟語には柔らかさと硬さがあり、形容詞を付けられるものとそうでないものがある。
- 同じような意味の熟語でも柔らかい・硬いは判別できない。
となります。
では、どのような方法で熟語が柔らかいか硬いのかを判断するのでしょうか。答えを申しますと、フランス語の熟語の柔らかさ・硬さを見分ける方法は(ほぼ)ありません。なので実際に形容詞をつけてみてフランス語ネイティブに聞くというやり方がもっとも確実な方法でしょう。
熟語が硬いか柔らかいかを判断する基準がまだ確立していないのでこのポイントについては確かな判断基準を得てから解説に加えようと思います。
今の時点では熟語に柔らかい・硬いという概念が存在するということを覚えておくとよいでしょう。